取りかこまれて芝居の切符なんかやつてるところだが、目がさめてさすがに寂しかつた。襟許が寒かつたよ。
随分二人で遊んだからな。会計はかはり番古にやることにしてゐたが、本因坊は地味だらう、私が芸者を八人も九人も呼ぶとそはそはして便所にばかり立つてゐるんだ。それで、
「本因坊さん、この口は私がもつよ」
と言ふと落着くんだ。
若い頃は、二人して新宿にも吉原にも遊びによく行つた。木村義雄は吉原の朝帰りの拾ひものなんだ。
その時も本因坊と二人で、浅草の草津温泉の近くの伊藤作次郎といふ人のやつてる将棋会所の前を通ると、
「先生! 寄つてつて下さい」
と無理に引つぱり込れて、坐敷に上つてみると小さな可愛いゝ子供が一生懸命指してるんだ。見てゐると本因坊が
「なかなか筋がよさゝうぢやないか!」
と言ふんだ。私もさつきから内心感心してゐたんで、
「坊や、俺が一番指してやらう」
と六枚落かで、五番ほど指してやつた。これがいまの木村名人さ。矢張畑は違つても本因坊の目のつけ処はたしかなもんだ。
吉原からの朝帰りの拾ひものとしては、大物を拾つたものさ。
近頃は二人で出かけると、方々の新聞社なぞで
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