本因坊はどツちかと言ふとだんまりでむつつり屋、なかなか経済的にもしつかりしてゐたが、私は御承知の様に、ぱアツとしてる方だから、まして若い時分は興に乗れば着てゐる羽織でも着物でも脱いでみんなやつてしまふといふ性格だから、まア陰陽がうまく合つたんだネ。
 似てる処か! さうさな、後では碁将棋の名人同志、後先変わらないのは、女好き位のところかネ。アツ、ハツハツハ‥‥‥。
 だが、本因坊のえらい処は、何事にも熱心なところだ。どちらかと言ふと器用な性で、将棋、聯珠、大弓、弓なんかあの痩せつぽちの小さな体躯をしながら相当強いのを引いたからネ。術なんだらう。懲り出すと何でもある程度に達するまで、そりや熱心なんだ。
 将棋がさうだつた。素人初段位の腕前があつたが、本職の碁を打つと同様に、よく考へて決して一手も苟しくもしないといふ態度なんだ、あの位の程度ならまア一時間もかゝればせいぜいなのに、本因坊のは考へ込むので二時間も三時間もかゝつた。
 これに閉口して将棋会なぞに顔を見せると、
「まア、あなたはお強いんだから見てゐて頂きませう」
 なんて敬遠され勝だつたよ。この熱心の態度だな。私は黙つてそばで見
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