って詐欺に成功し、パリーとウィーンで凡そ二十六万円の金を詐取したといわれて居る。
 その方法は彼のストリーターに示したと同じであって、最初に実験して見せるとき、るつぼ[#「るつぼ」に傍点]の中へ特種の粉を投じて濛々たる煙を発生せしめ、その間に助手をして、金を投ぜしめ、金が殖えたように思わせるのである。愈よそれによって慾の深い人を欺き、大袈裟な実験に移ると、テッジーは先ずその金貨を、酸を入れた大きなタンクに入れ、十日又は十四日間その儘にするのである。彼の言う所によると、多量の金を取り扱う際には、こうして予め金を軟かくする必要があるというのである。
 テッジーは出資者と共に実験室にはいって、金貨をタンクの中に投ずるのであるが、その実、投じてから間もなく二重底の仕掛によって、贋の金貨と擦りかえるのである。若し出資者がいつ迄もタンクを見張って動かないときは、テッジーは室内に悪臭ある瓦斯を漲らせて一時追い出し、その間に助手をして擦り替えを行わしめるのである。そうして擦り替えるが早いか、彼等は直ちに風を喰って逃げてしまい、出資者だけは、タンクを見張って贋の金貨が軟くなる日を待って居るのである。
 
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