って詐欺に成功し、パリーとウィーンで凡そ二十六万円の金を詐取したといわれて居る。
 その方法は彼のストリーターに示したと同じであって、最初に実験して見せるとき、るつぼ[#「るつぼ」に傍点]の中へ特種の粉を投じて濛々たる煙を発生せしめ、その間に助手をして、金を投ぜしめ、金が殖えたように思わせるのである。愈よそれによって慾の深い人を欺き、大袈裟な実験に移ると、テッジーは先ずその金貨を、酸を入れた大きなタンクに入れ、十日又は十四日間その儘にするのである。彼の言う所によると、多量の金を取り扱う際には、こうして予め金を軟かくする必要があるというのである。
 テッジーは出資者と共に実験室にはいって、金貨をタンクの中に投ずるのであるが、その実、投じてから間もなく二重底の仕掛によって、贋の金貨と擦りかえるのである。若し出資者がいつ迄もタンクを見張って動かないときは、テッジーは室内に悪臭ある瓦斯を漲らせて一時追い出し、その間に助手をして擦り替えを行わしめるのである。そうして擦り替えるが早いか、彼等は直ちに風を喰って逃げてしまい、出資者だけは、タンクを見張って贋の金貨が軟くなる日を待って居るのである。
 一寸考えると、こんな馬鹿げた詐欺にかかるものはよほどどうかして居るだろうと思われるけれども決してそうではない。かの高柳某《たかやなぎぼう》の詐欺もその方法こそちがえ、原理に於ては一種の錬金詐欺ということが出来よう。
「誰にでも出来る一万円貯金法」。これが錬金術でなくて果して何であろう。
[#地付き](「探偵文藝」一九二六年一月号)



底本:「幻の探偵雑誌5 「探偵文藝」傑作選」光文社文庫、光文社
   2001(平成13)年2月20日初版1刷発行
初出:「探偵文藝 第2巻第1号」奎運社
   1926(大正15)年1月号
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:川山隆
校正:土屋隆
2006年11月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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