市の保安会の決議によって、サンフランシスコを追い出され、ニューヨークに来て一ヶ年半程滞在し、後英国に渡って富豪達に人気のある一流のホテルに宿泊した。
 其処で彼は数多《あまた》の紹介状を贋造して、多くの富豪の知己となり、それから彼は徐々に詐欺の方策を進めて行った。そうして郊外に一軒の家を求めてそれを立派な実験室に改造し、錬金の秘法を発見したと言い触らして、いい鴨の飛び込んで来るのを待った。
 その鴨の一つとなったのがボンド街に貴金属商を営んで居るストリーターであった。彼ははじめストリーターに逢っても、少しもその秘密を洩さなかったが、段々親密に交際するに及んで、遂に彼の発見した錬金の秘密法を語ったのである。彼の発見した方法によると、一ポンド金貨をるつぼ[#「るつぼ」に傍点]に入れて溶かしそれに特種の薬品を加えると三倍量の黄金を得るというのであった。もとより、ストリーターは、はじめ、そんなことは出来まいと言ったので、テッジーはストリーターを実験室に案内して、助手と共にその実験を行って見せた。彼は五個の一ポンド金貨をるつぼ[#「るつぼ」に傍点]の中へ入れ実験を終って、其処に発生した金塊を手渡し、「ストリーターさん、この金塊を冶金師のところへ持って行って分析して貰って下さい」と言った。
 ストリーターがある冶金師をたずねてそれを分析して貰うと、果して使用した金量の三倍に当った。驚いてテッジーの許へ帰ると、テッジーはストリーターにすすめて多額の資金を出させ、それを三倍にしてあげようと言った。
 ストリーターの心は大に動いたが、何となく危険に思ったので少しく躊躇した。彼はテッジーが助手を使って実験を行うのに不安を懐いたのである。そこで金貨を提供する代りに、金の棒を提供するから、それを三倍にして貰いたいというと、テッジーは金貨でなくては実験はしないと言ったので、愈よその疑念を深めるに至った。すると、テッジーは今まで見せなかった「哲学者の石」を出してストリーターに示したが、ストリーターは石のことに通じて居たので、それを見て、すぐ大理石に過ぎぬことを知り、詐欺にちがいないと悟って警視庁へ訴え出たのである。その結果テッジーの身許が知れ、テッジーは刑務所に入れられた。
 然し、刑務所から出るなり又直ちに錬金詐欺を始め、其の後幾度となく刑務所に入れられた。彼は英国ばかりでなく、大陸の方へ渡
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