図書館のようにがら明きになってしまうからである。サバチニなどの歴史的探偵小説や、ドイルのある作品など面白いには面白いが、どうもオルチー夫人ほどの興味が私には湧かぬ。もう少し、誰か、読みごたえのある歴史的探偵小説を書いてくれたら、こうもこの文を書くに困るまいが、こればかりは考古学者のように墓穴を掘ってさがす訳にいかぬから始末におえぬ。
 が、こんなことを書いていては、書く私の困惑よりも、読者の御迷惑の方が遙かに大きいと思うから、これから歴史的探偵小説の興味というようなことに就て、思ったままを述べて見たいと思う。
 歴史的探偵小説に限らず、上手に書かれた歴史小説は、とにかく、読んで面白いものである。事件の推移の有様よりも、その事件の行われている背景がいうにいえぬ楽しい気分を醸《かも》してくれるものである。白日《はくじつ》に照された景色よりも月光に照されてぼんやりしている景色の方が、何とのう、神秘的な、怪奇的な奥床《おくゆか》しい気分をそそると同じように、過去の時代即ち想像によってしか思い浮べることの出来ぬ時代もそれと同じような気分を湧かすからである。
 岡本綺堂氏の「半七捕物帳」は私の大好
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