てありましたが、俊夫君はそれを取り除いて、敷布の上を熱心に探しました。そして枕の下から一本の毛を拾いあげて保存しました。それからベッドの下や、寝室のあちらこちらを検《しら》べまわりましたが、別に、これという発見はないようでした。
「湯殿へ案内してください」
と俊夫君はとつぜん申しました。私たちは何のことかと顔を見合わせましたが、令嬢は黙って先へ立ってゆきました。
「風呂をわかすのは婆やさんですか?」
と俊夫君が聞きました。
「いえ、婆やは年寄りですから、風呂は斎藤さんの受け持ちです」
「婆やさんは、そんなに年寄りですか」
「耳も遠く、目もよく見えぬのですが、長年忠実に仕えてきてくれましたから使っております」
と令嬢は答えた。
湯殿は二坪ばかりの広さで、隅の方に三尺四方位の浴槽が備えつけてありましたが、水で濡れておりました。俊夫君は熱心に探した結果、浴槽の外側の、ちょっと人目につきにくい所に、赤黒い小さい斑点をたった一つ見つけましたので、令嬢に頼んで、その部分の木を斑点もろとも削らせてもらいました。
湯殿の検査が終わってから、俊夫君は令嬢に向かって顕微鏡を貸してくださいと頼みま
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