皮で作ったものを好んで持っている人だと言われました。
 そこで僕は先生の爪の間にあった蝙蝠《こうもり》の毛を思い出し、その人は冬のことだから蝙蝠の皮をつなぎ合わして作った襟巻をかけていたのだろうと思いました。先生の首をしめた時に先生が抵抗なさったので、そのとき蝙蝠の毛が、爪の中に入ったのでしょう。果たして、僕の推定は当たりました。……」
 信清さんはその日に無罪放免となりました。俊夫君の推定のごとく、主犯人は遠藤博士の実弟で、某強国から多額の金を貰って毒瓦斯の秘密を奪うために、書生の斎藤を買収して博士を殺したのだと白状したそうです。殺してすぐに逃げなかったのも、やはり秘密を見つけることができなかったのと、も一つは令息に嫌疑をかけて、無事に身を晦《くら》ます心算《つもり》だったということです。
 かくて俊夫君のおかげで、大切な毒瓦斯の秘密は奪われずにすみました。



底本:「小酒井不木探偵小説選 〔論創ミステリ叢書8〕」論創社
   2004(平成16)年7月25日初版第1刷発行
初出:「子供の科学 二巻六〜八号」
   1925(大正14)年6〜8月号
入力:川山隆
校正:伊藤時也
2006年11月14日作成
青空文庫作成ファイル:
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