拝見してその髭ののび方の少ないのに驚いたのです。病気中に髭を剃る人は滅多にないから、たとい十一日の朝お剃りになったとしても昨晩までにはもっとのびていなくてはならぬと思ったのです。
 そこで私は物差しを出して髭の長さをはかってみたら一・五ミリメートル内外のものばかりで、二ミリメートルを越したものは一本もありませんでした。髭は一日におよそ〇・五ミリメートルのびるものですから、もし先生が昨晩まで生きておられたのならば、少なくとも二・五ミリメートル以上なくてはなりません。そこで私は先生が殺されなさったのは昨晩ではないと判断しました。
 してみると、昨晩先生のベッドにいた人は、先生の替え玉でなくてはならぬと思ってベッドを捜すと、付け髭の毛が一本見つかりました。替え玉だとしてみると、お嬢さんを近づけぬように怒鳴り散らしたわけがよく分かります。信清さんは久しぶりにお父さんの顔を見られたので、ことに薄暗い室《へや》では、お父さんの替え玉だということがよく分からなかったのです。
 さて替え玉だとしてみると、その男こそ先生を殺した犯人だということが分かり、同時にとうぜん斎藤が共犯者でなくてはならぬと思ったのです。すると、殺害の動機は何であろうか。言うまでもなく毒瓦斯《どくガス》の秘密を奪うつもりだろう。しかるに犯人たちが昨晩までいたのは、おそらく秘密を見つけることができなかったためだろう。こう考えて、書斎を捜してみると、果たして秘密が隠してありました。
 次に僕はもし三日前に殺したのだとすると、その間死体をどこへ隠しておいたのだろうかと考えました。するとこの家《うち》の中へ入る前に、勝手口のところの雪がたくさん取ってあるのを見たことを思い出したのです。
 雪はおそらく死体を冷やすために取ったのだろう。してみると、死体は風呂桶の中に雪詰めにしてあったに違いないと考えて風呂場を詳しく検査すると、果たして血痕がたった一つ見つかりました。その血痕はたぶん先生の鼻から出たものでしょう。まだその他にもあったに達いないですけれど、おそらく斎藤が冷水浴をやる風をして洗いさったのでしょう。
 最後に僕は先生の替え玉になる男は何者であろうと考えました。先生の替え玉になる者はきっと先生に似た男に違いないと、ご親戚の有無を尋ねたら、お嬢さんは、叔父さんが一人あって、しかもその人は変人で、蛇の皮や、蟇《がま》の
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