暗かった。自分は安心して仕事にとりかかった。
先ず物置から火薬入りの鑵を取り出して薄暗い電灯のついて居る勝手元に置いた。それから書斎のドアを開いた。入口の、扉《ドア》のあたる柱の内側に電灯のスイッチがあった。然《しか》し自分はあかりをつけないで絨毯の床を手さぐりで中央に進み、そこに置かれてある机の上の台附電灯《スタンド》のスイッチを捻って絶縁させた。これで電灯をつけるためには二重の手数を要する訳である。それから電灯を取りはずして勝手元に引きかえし、検《しら》べて見るとそれは、いつものとおりの艶消し瓦斯《ガス》入りの、一〇〇ボルト六〇ワットの電球であった。直ちにポケットから鑢《やすり》を取り出して先端をこすると、間もなくビュンという音がした。
直径四ミリメートル位の、即製の孔《あな》に眼をあてて、自分は電球の内部をのぞいて見た。そこには、曇り硝子張りのドームを持つ建物のように、美しい柔かな感じの世界がぼかし出されて居た。あらい蝙蝠傘《こうもりがさ》の骨を張り拡げたような吊子《つりこ》に、ピアノの鋼線に似た繊条が、細い銀蛇《ぎんだ》のくねりのように、厳めしい硝子棒と二本の銅柱に押しあげ
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