姉さんでも大丈夫だろうから」
ビリーが病気にかかった時、弘《ひろむ》はこう発議して、いつも、薬袋を其処へ置くことになって居た。その薬袋がないのである。由紀子は暫く考えて居たが、
「そうそう、今朝|弘《ひろむ》ちゃんが、楊枝をつかいながら嚥《の》ませて居たから、……そうかも知れない」
独り呟《つぶや》き、独りうなずいて、彼女は階段を上りかけたが、突然中途で、釘づけにされたように立ちどまった。二階へあがって弘《ひろむ》の部屋へはいっても、部屋へはいったということが知れてはならなかったからである。弘《ひろむ》には妙な癖があって、彼女がたまたま留守中に部屋へはいると、あとで弘《ひろむ》は、襖の閾《しきい》に線を引いて置いたが、それがちがった位置になって居るとか、硯箱《すずりばこ》について居た指紋が僕のとちがうとか、蜘蛛の巣が破れて居るとか、書物の置き方が乱れて居るとかいっては、由紀子をなじるのであった。
「あなたのお部屋にはどんな秘密があるの」
ある時由紀子がたずねると、
「なに、秘密なんかあるもんですか。ただ、あの部屋は僕のオアシスです。それに塵っぽいから姉さんの呼吸器に毒です」
と
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