与えてくれた。
 こうしてだんだん犯罪をかさねて行くうちに、若しや自分は、面白さのあまり自分の姉さんまでも殺してしまいはしないかと不安に思う。近頃何となく、姉さんの腕の白過ぎるのが気になり出して来た。早くこの邪念が去ってくれたらと、なるべく姉さんの腕を見ぬようにつとめて居るのである。

 読み終った由紀子は、眩暈《めまい》を感じてその場に膝を折った。そうして思わずもその本を落して、袖をもってその白い腕を蔽った。見る見るうちに頬の血が去って、瞳がどんよりと曇った。弘《ひろむ》の性質、行動、その他百千のことが頭にうずをまき、ただ怖ろしい感じのみが残って彼女の全身を戦慄させた。
 突然、ラウドスピーカーから、明快なメロヂーが流れた。それと同時に階下に口笛の音がした。
「姉さん――姉さん」
 由紀子は返事が出来なかった。
 トン、トン、トンと、軽快にあがって来る弘《ひろむ》の足音が続いて起った。由紀子はあわてて立ち上った。
「姉さん、おや、こんなところに居たね。ビリーに薬をのませてくれた?」
「いま、とりに来たところよ」
 やっとこれだけ由紀子は言い得た。
「おや、大変顔色がわるい。どうしたん
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