いて庭に降りました。その時、三毛は庭の杉の木にすらすらとのぼりかけましたので、私は追かけざまやっ[#「やっ」に傍点]といって、三毛に斬りつけました。
果して手ごたえがありました。
はっ[#「はっ」に傍点]と思う間に、私は左の足と右の眼に燃えるような痛さを覚えました。
三毛を斬ったと思いの外、三毛は逃げてしまって、直径五|寸《すん》もあろうと思う杉の幹を、斜に真二つに切り放っておりました。そうしてその上の方の幹が手前へすべって下に落ちたとき、その尖端が私の左の足を芋刺しにしておりました。それと同時に、一本の枯枝の端が私の右の眼をずぶりとつき刺しておりました」
ここまで語って、色眼鏡の人はほっと一息ついた。汽車は相変らず同じような響を立てていたが私は何だか恐しい世界に引き摺り込まれて行くような思いがした。
「いや、とんだ長話をしましたな」とその人は続けた。「私はそれからすぐ病院にかつぎ込まれ、右の眼はつぶれただけですみましたが、左の足が化膿してついに膝から下を切断するのやむなきに至りました。後妻の葬式は親戚や知人の手で営まれ、私は四十日間の入院の後、義足をつけて歩くことが出来るよ
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