事情があってとうとう結婚したので御座います。それが抑《そもそ》もの間違いのもとでした。即ち私が断然として養子に行きさえせねばよかったのです。つまり私の意志が薄弱であったことが、今こうした悲運を齎《もたら》したといって差閊《さしつかえ》ありません。仲人は私に向って先方が容貌《きりょう》が悪くても、ほかに美しい女を囲えばよいではないかといって私に頻にすすめました。そうして私は皮肉にも、仲人の言葉を実行してほかに女を囲うようになったのですが、そのために先妻は私とその女をうらんで自殺したので御座います。
 容貌のみにくい女は残忍性を持つということを何かの書物で読んだことがありますが、私は私の経験によって、その残忍性が死後には一層強くなってあらわれるということを発見しました。私の囲ったのは芸者上りの女でしたが、一たびそのことが先妻の耳にはいりますと、私の家は実に暗澹《あんたん》たる空気に満たされました。彼女は泣いて私に訴えるばかりでなく、時には噛みついて私を責めるのでありました。その都度店のものが仲裁にはいってくれましたが、そうしたことが度重なった末ある夜、私が女の許へ行って居た留守中に、家に代
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