顔が招いたので、思わずも引きつけられて、中へはいった。
清三は、嬉しそうに迎えてくれた妙子の顔を暫く見つめていたが別に何の変った様子も見られなかった。
「妙子さん」彼は遂に堪えられなくなっていった。「今このうちから子供を連れた男の人が出て行ったが、もしや妙子さんにあいに来たのでない?」
「いいえ」と妙子は驚いた様子をした。「何だか下へ御客様があったようだけれど、どんな人だか知らぬわ」
「きっとあわなかった?」
「ええ、なぜそんなことをきくの?」
「それでは、下の小母《おば》さんにきいて来て下さい、今の人は何しに来たといって」
妙子は怪訝《けげん》そうな顔をしたが、清三の様子が一生懸命だったのですなおに下へ行った。そうして暫くの後戻って来た。
「あの方はある生命保険会社につとめている人で、こちらの親戚ですって。今日は日曜日だから、御子さんを連れて散歩に出かけ、こちらへお寄りになったそうです」
「ちがう、ちがう」と、清三は叫んだ。「まだほかに重大な用事があったんです」
「あら、なぜ……?」
清三の顔はにわかに血走って来た。
「妙子さん!」
「え?」
「僕は……僕は……」
彼はもう辛
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