いよ主人の雇った探偵に尾行されていることを意識したのである。
「やっぱり、主人は気附いたんだ」
 清三はうつむきながら考えこんだ。彼の頭はその時、自分の犯した罪の追憶で一ぱいになって来た。
 恋人の妙子を喜ばせたさに無理な算段をした結果、友人に借金を作り、それを厳しく催促されて、やむを得ず彼は店の指輪を無断で拝借して質に置いたのである。店の品物の整理係をつとめているので、こんど整理の日が来るまでにお金を作って質屋から請出し、そのままもとにかえして置けばよい、こう単純に考えて暮して来たのだが、それが思いがけなくも、主人に勘附かれたと見える……
「なぜ、あんなことをしたのだろう」
 こうも彼は思って見た。大丈夫発覚はすまいと思った自信が彼を迷わしたのだ。自分はなぜ男らしく、主人に事情を打ちあけてお金を借りなかったのか。
 けれども、恋人のために金がいると話すのは何としても堪え難いところであった。それかといって、主人に知れてしまった今となっては、所詮一度は気まずい思いをせねばならない。その結果、店にいることすら出来なくなるかも知れない。
「だが、主人とても、まだはっきり自分が盗んだとは思うま
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