とは思わなかったので、警察の人の来ぬのを不審に思いながら、何かよい自殺方法はないものかと、実は今晩も君の来る前に、頻《しきり》に考えて居たんだよ。だから、君の顔を見たとき、驚くよりもむしろ嬉しい思いがした」
立って居る男の顔には侮蔑と不審の色が浮かんだ。病人はそれを察して続けた。
「君は定めし、僕が強がりをいって居ると思うだろう。又、僕が自殺したくても自殺の出来ぬ状態にあるということを不審に思うだろう。然《しか》し、僕がどういう理由で、この病院へはいって居るかということを知って居たなら、僕のいうことに不審は起きない筈だ。なに? ちっとも知らないって? それは君、ちと、迂闊《うかつ》ではないか。君が僕を毒殺するために、そういうドラマチックな計画をして置きながら、殺すべき相手の現状を委《くわ》しく調査しなかったというのは、大きな手ぬかりではないか。幸いに僕が自殺を計っても死ななかったからよいものの、もし僕が自殺を遂げて居たら、折角、致死量のストリヒニンでも死なぬからだ[#「からだ」に傍点]を苦心して拵《こしら》えたとて、何の役にも立たなかったじゃないか。
君のその旺盛な復讐心に水を注す
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