二重人格者
小酒井不木

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)大星由良之助《おおぼしゆらのすけ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#天から4字下げ]レンズとスリガラス
−−

       一

 河村八九郎は今年二十歳の二重人格者である。
 第一の人格で彼は大星由良之助《おおぼしゆらのすけ》となり、第二の人格で高師直《こうのもろなお》となった。
 彼がどうしてこのような二重人格者となったかは、はっきりわかっていない。父が大酒家であるという外、父系にも母系にもこれという精神異常者はなかった。ただ父方の曾祖父が、お月様を猫に噛ませようと長い間努力して成功せず、疲労の結果、人面疽《じんめんそ》にかかって死んだということがいささか注目に値するだけである。
 母が芝居好きで、よく彼を劇場へ連れて行ったことは、はじめて彼が大星由良之助となった間接の原因に数えてよいかも知れない。
「委細承知……はァはァ」
 これが彼の、人によばれた時の返事であった。
「獅子身中の虫とはおのれが事……」
 これは彼が弟を折檻《せっかん》する時の言葉であった。
次へ
全11ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング