施さないでも、他の小手術でなおるだろうと思いましたので、そのことをS教諭に告げて置きました。
 ところが、私の予想は全くはずれたのです。その夜はちょうど私の当直番でしたが、夜半に看護婦があわたゞしく起しに来ましたので、駈けつけて見ると、彼女はベッドの上に、のた打ちまわって、悲鳴をあげ乍《なが》ら苦しんで居《い》ました。私は直ちに病気が重《おも》ったことを察しました。或《あるい》はアトロピンを点眼したのがその原因となったかも知れません。はっ[#「はっ」に傍点]と思うと同時に、心の底から痛快の念がむら/\と湧き出ました。取りあえず鎮痛剤としてモルヒネを注射して置きましたが、あくる日、S教諭が診察すると、右眼の視力は全々《ぜん/\》なくなってしまい、左の方もかすかな痛みがあって、視力に変りないけれど、至急に右眼を剔出しなければ両眼の明を失うと患者に宣告したのであります。そうしてその時S教諭は患者の目の前で、これ程の容体になるのを何故昨日告げなかったかと、例の如く、Stumpf《スツンプ》, Dumm《ドウン》 を繰返して私を責めました。
 S教諭が患眼剔出を宣告したとき、私は彼女が一眼をくり
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