眼《かんがん》の剔出を行うことになって居ります。従って、緑内障の手術には、眼球剔出法が、最も屡《しばし》ば応用されるものであります。
 さて、私は、外来診察所から廻されて来た件《くだん》の女患者に病室を与え、附添の看護婦を選定した後、視力検査を行い、次に眼底検査を行うために彼女を暗室に連れて行きました。暗室は文字通り、四方の壁を真黒に塗って蜘蛛の巣ほどの光線をも透さぬように作られた室《へや》ですから、馴れた私たちがはいっても息づまるように感じます。況《いわん》やヒステリックな女にとっては堪えられぬほどのいら/\した気持を起させただろうと思います。私は瓦斯《ガス》ランプに火を点じて検眼鏡を取り出し、患者と差向いで、その両眼を検査|致《いた》しましたところが、例の通り私の検査が至って手|遅《のろ》いので、彼女は三叉《さんさ》神経痛の発作も加わったと見え、猛烈に顔をしかめましたが、私はそれにも拘《かゝわ》らず泰然自若として検眼して居ましたから、遂に我慢がしきれなくなったと見えて、「まあ、随分のろいですこと」と、かん高い声で申しました。
 この一言は甚だしく私の胸にこたえました。そして、彼女の
前へ 次へ
全15ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング