感じを起させました。
 藤岡さんは、小学校時代には随分元気がよく、極めて快活な人でありましたが、その快活さは今でも変りません。しかし、入学試験の話になってから、藤岡さんは、急に、曇ったような表情をしました。
 私は先刻からそれを不審に思いました。と、その私の不審に気づいたものか、
「実は私も入学試験ではひどい目に逢いましたよ」と、説明するように、藤岡さんは言いました。
「ええ?」と、私はいささか驚きました。「ひどい目といって、どんなことなのですか」
「いやもう、まったく御話しにならぬような馬鹿々々しいことです。私は小学校を出るなり、東京のI中学にはいりましたが、中学を卒業すると、陸軍士官学校を志望したのです。ところが、身体検査で見ごとにはねられました。……」
「あなたのようないい御体格の人が? どこかお悪かったのですか?」
「いいえ、それがまったく、つまらぬことなのですよ。で、その翌年、再び志願しましたところ、今度は別の原因で又もや見ごとにはねられました。それからもう、軍人になることは断念して商人になってしまいました」
 私は藤岡さんのこの言葉をきいて、急に好奇心に駆られました。一たい
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