し今、うれしいといったわねえ。然し、うれしいという気持になれない」私はぎくり[#「ぎくり」に傍点]としました。そうしていきなり彼女に接吻しました。
「あら、許して頂戴! わたしちっとも、なつかしいという気がしない」
 私は更に吃驚《びっくり》しました。
「あなた、済まない。笑おうと思っても笑えない。うれしがろうと思ってもうれしがれない。これでは生きて居ても何にもならない!」
 その時の私の絶望! 私は思わず、ベッドに顔を埋めました。
「あなた! 駄目! 早く人工心臓を取り去って頂戴。死ぬことも、生きかえることも、何の感じもない!」
 二年間の研究はこの一|言《ごん》で木っ葉微塵に打ち砕かれました。恐怖を除くことのみを考えた私たちは、人工心臓が快楽やその他の感情をも除くことに気がつかなかったのです。悔恨《かいこん》! 慚愧《ざんき》! 妻は今それさえも感じません。人工心臓は結局人工人生に過ぎなかったのです。
 パチッ! 私は思い切って、モーターをとどめるべくスイッチを捻《ね》じました。

 いや、とんだ長話をしましたねえ。私のこの苦い経験は或はランゲの説を実証したかもしれませんが、私はそ
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