の眼をみつめました。活栓は一分間に二百五十回の割で動きましたから、脈搏の数《すう》を数《かぞ》えることは出来ませんが、血液が無事に巡回して居ることは、はっきり感ぜられました。
 五分! 彼女の唇がその色を恢復すると同時に、眼瞼《がんけん》がかすかにふるえました。私は思わず、うれしさの叫びをあげようとしました。犬と羊の実験をしたときも、最初にこの眼瞼の顫えを経験したからです。
 七分! 彼女の両眼球が左右へ廻転し始めました。私は、張り裂る程の喜びを無理に押えて彼女を見つめました。
 九分! 彼女はぱっちり眼《まなこ》を開いて空間をながめ、唇を動かしました。
 十一分! 彼女の視線は私の顔に集中されました。
 十三分! 彼女は「ああ」と太息《といき》をもらしました。私は思わず叫びました。
「房子! わかるか、生きかえったのだぞ!」然し彼女はにっこりともしませんでした。
「房子! 人工心臓は成功した。うれしいだろう?」
「うれしい」と彼女は機械的に声を出しました。
「うれしいか。僕もうれしい。お前は新らしい生命を得たのだ!」
「あら!」と彼女はやはりマスクのような顔をした儘申しました。「わた
前へ 次へ
全47ページ中44ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング