って傍観するだけでして、止血剤など何の役にも立ちません。血管が破れたまま捨てて置く……何という恐怖でしょう。私はそれまで患者を診察しても、患者の恐怖心については一度も考えたことがありませんでした。私はその時初めて自分で病気したことの無い医師は患者を治療する資格はないと痛感しました。咯血時の恐怖さえ除いてくれたならば、咯血そのものは何でもないとまで思うに至りました。医学の最大の任務は、病気そのものの治療にあるのではなくて、病気に対する恐怖心を除くにあると悟りました。
私は眠れない不安を除くために、妻を煩わしてモルヒネの注射をしてもらいました。とても通常量ではこの恐怖を除くことは出来まいと思って、少しく多量に注射をしてもらいました。するとどうでしょう。一時間経たぬうちに、恐ろしい不安はすっかりなくなってしまいました。そうして、いつの間にか、心地よい夢路を辿って居《お》りました。あなたはモルヒネを摂《と》った経験がおありですか。又、『オピアム・イーターの懺悔』という書を御読みになったことがありますか。兎《と》に角《かく》、モルヒネを摂ると夢とも現《うつつ》ともわからぬ一種の快い世界へ引きこ
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