なお一層うれしいだろうと想像したものです。といって、別にその女を殺そうというような気には決してならなかったのです。それのみか、人を殺した人間に対しては、はかり知れぬ憎悪の念を抱きました。そうして、さような人間をば、あく迄苦しめてやりたいという衝動に駆られました。これが即ち、私をして法医学を志さしめるに至った重大な動機なのです。即ち、法医学では、死体を取り扱うことが出来ると同時に、鑑定によって、犯人の逮捕を助けることが出来、従って犯人を精神的に苦しめることが出来るからであります。いや、全く、変な動機もあればあるもので、現今の法医学者中、私と同じような動機で、法医学を志したものは、私以外には一人もないだろうと思って居《お》ります。
サヂズムを持った人間は、通常血を見ることを非常に好むといわれて居《お》りますが、私は特に血を見ることを好むというほどではありませんでした。尤《もっと》も、ここでいう「血」なるものは、生きた身体即ち、暖かい身体から流れ出る血をいうのでありますが、死体から出る血に対しては、どちらかというと快感を覚えました。然し、その色を見て愉快に思うというよりも、むしろ、ねばねば
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