を専攻するようになったかということから御話ししなければなりません。然《しか》し、その動機を御話しするとなると、自然、私の弱点をも御話しせねばなりませんが、一旦御話しすると申しあげた以上、思い切って言うことにします。一口にいえば、私が法医学を選んだのは、私のサヂズム的な心を満足せしめる為だったのです。おや、そんなに眼をまるくしないでもよろしい。別にあなたを斬りも殴《は》りも致しませんから御安心なさい。サヂズムは程度の差こそあれ誰にでもあるものです。自分で言うのは当にならぬかも知れませんが、私のは常人よりも少し強いくらいのものでした。而《しか》もこの痣を拵らえてからは、不思議にも私のサヂズムは薄らいで行きました。
 それはとに角、私は、小さい時分から、他の子供と比較して幾分か残忍性が強かったように思います。他人が肉体的精神的に苦しむ姿を見て、気の毒に思うよりも寧ろ愉快に思ったことは確かです。然し、それかといって、自分で直接他人に苦痛を与えることはあまり好まなかったのです。
 家代々農業に従事して居《お》りましたが、中学校を卒業したとき、私は、何ということなく、医者になって見たかったので、そ
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