に言えぬもどかしさを覚えたよ。この二、三日、わしはなんともいえぬやるせない心細さを感じてきた。これではなんとかしなければならんと、法信、わしは食べ物も咽喉《のど》をとおらぬくらい考え悩んだのだ。
ここにいま燃えているのが、良順の脂肪でつくった蝋燭のおしまいだ。わしは先刻から気が気でないのだ。法信、わしは良順の代わりがほしくなった。わしは、法信、お前を殺したくなった。
こら、何をする! 逃げようったとてもう駄目だ。この暴風雨は、人を殺すに屈竟《くっきょう》の時だ。これ泣くな、泣いたとて、わめいたとて、誰にも聞こえやせん。お前はもう、蛇《へび》に見こまれた蛙《かえる》も同然だ。いさぎよく覚悟してくれ、な、わしの心を満足させてくれ、これ、どうかわしの不思議な心をたのしませる蝋燭となってくれ、よう」
和尚に腕をつかまれた法信は、絶大な恐怖のために、もはや泣き声を立てることすらできず、その場に水飴のようにうずくまってしまった。でも、今が生死のわかれ目と思うと、その心は最後の頼みの綱を求めて、思わず歎願の言葉となった。
「和尚さま、どうぞ勘弁《かんべん》してくださいませ。わたしは死にたくあり
前へ
次へ
全12ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング