嘗《な》めても病気にかからぬ迄になったのよ。先刻、あなたが電灯を消しに行った間に、病院から黙って持って来た試験管の、生きた黴菌を口に入れたのよ。それから接吻でしょう。わかって?」
嘔吐の声。唸《うめ》く声。
「なかなか苦しそうですねえ。苦しみなさい。今年のは毒性が強いから、四時間で発病すると医者が言ったのよ。『四時間』の意味がわかったでしょう? ね、これからあなたは、苦しみ抜いて死ぬのよ。電灯をつけましょうか。どうしてどうして、おお、見るも厭だ。あなたが死んでしまってから警察へ届けるのよ。たとい死体を解剖されたって、他殺だとは決してわからぬわよ、ホ、ホ、ホ、ホ、ホ」
嘔吐の声。唸く声。
死を語るにも暗い方がよい。これも……誰でも知って居ることかも知れない。
底本:「怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集 恋愛曲線」ちくま文庫、筑摩書房
2002(平成14)年2月6日第1刷発行
初出:「大衆文芸」
1926(大正15)年5月号
入力:川山隆
校正:宮城高志
2010年4月22日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http:/
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