この前のような、呆気ない態度には出るまいと思い、一日も早く敏子に逢いたいと思った。
けれど敏子の行方《ゆくさき》は誰も知らなかった。あんまり深入りしてたずねるのも気がひけたので、彼は敏子が帰るまで毎日訪ねて来て様子を見ることにした。
五日過ぎ、七日過ぎても敏子の家は閉されたままになって居た。逢えぬと思うと益々逢いたくなった。漸《ようや》く二週間目に、彼は敏子が帰って来て居ることを知ったが、日中、何となく恐ろしいような気がしたので、夜になるのを待ちかねて、久し振りに、馴染の深い玄関のベルのボタンを心臓の動悸を高めながら押すのであった。
[#6字下げ]五[#「五」は中見出し]
「まあ、雉本さん、よく来てくれました。きっと来て下さるだろうと思って待って居たのよ」
と、敏子は自分で玄関まで出迎えて、嬉しそうな顔をして言った。彼女は幾分頬がこけて居たが、そのため却って美しさを増した。
静也は、眼を泣きはらした顔を想像して居たのであるから、彼女のこの言葉に頗《すこぶ》る面喰って、何といってよいかに迷った。
「今晩、女中は居《お》りませんの、ゆっくり遊んでいらしてもよいでしょう、御上りな
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