し、彼は京助の性格を考えるに至って、その問題を容易に解決した。京助は平凡人である。だから、平凡人を殺すにふさわしい平凡な方法を用うればそれでよい。と、彼は考えたのである。
先ず、会社へ行って京助を連れ出し、二人で西洋料理屋にはいり、ビーフステーキを食べる。京助は肉に焼塩をかけて食う癖があるから、その焼塩の中に亜砒酸をまぜて置けばそれでよい訳である。予《あらかじ》め、料理店で使用するような焼塩の罎を買って、焼塩と亜砒酸とをまぜて入れて置き、それを持参して、いざ食卓に就くというときに、料理店の罎とすり替える。……何と簡単に人間一匹が片附くことだろう。
普通の時ならば、亜砒酸中毒はすぐに発見される。然し時節が時節であるから、決して発見される虞《おそれ》はあるまい。彼は医師の腕に信頼した。平素人殺しをする医師諸君は、こういう時でなければ人助けをする機会がない。して見れば自分は医師にとっての恩人となることが出来る。何という愉快なことであろう。などと考えて、彼は殺人者が殺人を決行する前に陥る陶醉状態にはいるのであった。
[#6字下げ]四[#「四」は中見出し]
殺人を決意してから十日の後、
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