国枝史郎氏の人物と作品
小酒井不木
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)宿痾《しゅくあ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き](初出不明)
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最初は国枝史郎氏論という題で書こうと思ったけれど、「論」を書くほど自分の頭は論理的に出来ていないから、「人物と作品」と題して見たものの、自分には他人の人物や作品を批評する資格は少しもなく、ただその人物に接して得た私の感じを述べるに過ぎないことをあらかじめ御断りして置く。
始めて私が国枝史郎氏の作品に接したのは今から五年ほど前である。その頃私はパリーで再発した宿痾《しゅくあ》を郷里へ持ち帰って、ずっと寝床の上に居たが、講談倶楽部に連載された氏の作「愛の十字架」は次の号が待たれたほど面白かった。一たい私はそれまで日本の文壇の事は少しも知らず、病気さえしなかったならば今頃文筆に携《たずさわ》っているかどうか頗《すこぶ》るあやしいくらいであるから、氏の名高い処女作「レモンの花咲く丘へ」という戯曲についても何事も知らなかったのである。それから「愛の十字架」とたしか同じ頃に、氏は講談
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