犬神
小酒井不木

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)若《も》し

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二|瓦《グラム》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)くび[#「くび」に傍点]
−−

 私に若《も》しポオの文才があったならば、これから述べる話も、彼の「黒猫」の十分の一ぐらいの興味を読者に与えることが出来るかもしれない。然《しか》し、残念ながら、私はこれ迄、会社員をした経験があるだけで、探偵小説を読むことは好きであったが、二十五歳の今日に至るも、一度もこうした物語風のものに筆を染めたことはないのである。けれども私は、いま真剣になって筆を執《と》って居る。薄暗い監房に死刑の日を待ちながら、私が女殺しの大罪を犯すに至った事情を忠実に書き残して置こうと思って、ペンを走らせて居るのである。私はただ事実のありのままを書くだけであって、決して少しの誇張も潤色もしないつもりであるが、読者は、こんな話はあり得《う》べからざることだと思われるかもしれない。又、私を診察した医者に言わせれば私の精神は今なお異常を来《きた》して居るのか
次へ
全17ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング