思議にも犬の字に変って、而《しか》も大の字を犬の字たらしめて居る「丶」こそは、まがう方なき、どす黒い血痕ではないか。思えば、あの時、私が彼女の額に鏝を打ち下した途端に、たった一滴だけ血が飛んで大の字の傍らに附着したのを、私はうっかり見逃がしてしまったのである。
 私はうーんと一声うめいて、その場に気絶した。



底本:「怪奇探偵小説名作選1 小酒井不木集 恋愛曲線」ちくま文庫、筑摩書房
   2002(平成14)年2月6日第1刷発行
初出:「講談倶楽部」
   1925(大正14)年8月号
入力:川山隆
校正:宮城高志
2010年3月9日作成
青空文庫作成ファイル:
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