さえ知らなかったのであります。知っているのはこの物語の作者ばかりで、実は彼等は市内に二ヶ所の住居《すまい》即ち根城を持っていましたが、三人とも非常に変装に巧《たくみ》でありまして、単に風采を変えるのに秀でていたばかりでなく、他人の容貌に扮装することも、彼等にとっては極めて容易な業でありました。だから、警察には中々わからなかったのであります。何しろ盗賊にはいって、ただちにその家の主人公に扮装することなどがあるのですから、無理もありません。
ところが、悪運が尽きたとでもいうのですか、それとも、阿漕《あこぎ》が浦で引く網も度重なれば何とやらの譬《たとえ》か、警察ではやっとのことで、彼等の二つの住居の中の一つを嗅ぎ出したのです。場所はS区B町という尼寺の多い町でして、まったく宝石盗賊などの住みそうもないように思われる場所なのです。しかも、いざというときには、うまく逃げられるように、警察の知らぬ秘密の通路などがこしらえられてありました。
で、警察では、こんど、三人が何処かの邸宅にはいって宝石を盗んだならば、すぐこの根城を襲って彼等を取り押える手はずになっていたのであります。このことは、やはり
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