じまったのです。
 一しきり、どたんばたんという音が続きましたが、そのうちに突然ピストルの音がしたかと思うと、それと同時に「うーん」とうめく声が聞えました。そうしてしばらくの間、ぴたりと物音がとだえましたが、その時室外に突然どやどや沢山の人の足音がしました。即ち警官たちが、N男爵邸の盗難の報に接して、かねて目星をつけていた三人の巣窟を襲ったのです。
 警官たちが、三人のいた室にはいるためには、相当の時間を要しました。即ち扉《ドア》を破らねばならなかったからです。室の中には火薬の煙のにおいが漂っておりました。そうして、警官たちが、懐中電燈をもって室内を照らして見ますと、家具の狼藉の中に、箕島――即ち、いましがたダイヤモンドを嚥《の》みこんだ箕島が、左の胸部から血を流して死んでおりました。

       三

 もし箕島がダイヤモンドを嚥みこんでいなかったならば、仙波も京山も生命を失うような悲劇を起さなかったでしょうが、箕島の腹の中にあるダイヤモンドを取り返そうと二人が計画したばかりに、はからずも悲運を招くことになりました。
 B町の巣窟の秘密の通路から首尾よく逃げ出した仙波と京山の二人は、第二のかくれ家に来て、「ほッ」と一息つきました。
「貴様が箕島を殺したばっかりに、折角手に入れたダイヤモンドを、みすみす捨ててしまった」と、京山は残念そうな顔をしていいました。
 この京山の言葉によると、ピストルを発射したのは仙波だと見えます。
「仕方がないよ。箕島の奴、俺等二人を出し抜いて、自分一人でダイヤモンドをせしめようとしたんだもの。奴にとられるよりはまだましだ」と、仙波は、箕島を殺したことを左程後悔もせず、またダイヤモンドを失ったことをあまり惜しがりもしないような態度で言いました。
「これでいよいよ日本の土地を離れることが出来るのだと思って喜んでいたのに、すっかり計画がくるってしまった」と、京山は吐き出すようにいいました。
「まあそんなに悲観するな」と仙波は諭《さと》しました。仙波は甚だ気が短かい性分でして、だからこそ、一時の激情に駆られて、久しく親密にしていた箕島を殺したわけですが、京山が甚だしく悄気《しょげ》かえっているのを見ると、先ず自分から落ついて、京山をなぐさめるより外はありませんでした。
「でも惜しいよ」と、京山はなおもあきらめられませんでした。
「おいおい」
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