「それは、わたしが四回とも亜砒酸中毒だと思ったからでして、未亡人が死んだと聞いたとき、死因は亜砒酸中毒に違いないと判断したのです」
「けれど、あなたは四回めのときは診察なさいませんでしたでしょう?」
「急用ができて他行していたために、間に合いませんでした」
「だが、あなたは亜砒酸中毒の起こらぬようにといって、二十九日の朝、書生さんに一包みの薬を持たせてやられたのではありませんか」
「持たせてやりました。しかしそれは、単純な消化剤でして、亜砒酸中毒を防ぐ薬というものではありません。中毒のほうのことは令嬢にわたしの疑念を打ち明けて、それとなく注意しておきましたから、わたしは比較的安心して他行することができました。けれども、やはり気になったものですから、用事の済み次第奥田家を訪ねると、すでに死去されたあとでした」
検事は山本医師の返答を聞いてしばらく考えていたが、やがて言った。
「よくわかりました。してみるとあなたも、亜砒酸中毒だということは、単なる想像によって判断されたのに過ぎないのですね? べつに患者の吐物を化学的に検査されたのではないのですね? そうですか。それではわたしもひとつ、わ
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