ま申し上げたようなことが行われたのだと推定したのです。しかし、嫌疑といえば、保一くんばかりでなく、健吉くんにも令嬢にも女中にも、一応かけてみなければなりません。さきにわたしは健吉くんのことをいったん切り離して考えるよう申しましたが、ここに至って、健吉くんをふたたび引き出してくるのは少しも差し支えないと思います。かりに未亡人の前三回の発病がマラリアであると想像して、健吉くんに無関係であるとしても、健吉くんもまたその事情を利用して毒を投じたと考えてもよい理由があるのであります。というと、前三回の発病でさえ健吉くんが疑われているのだから、四回めに毒を投じたならば当然健吉くんが犯人と睨《にら》まれるに決まっているから、まさかそんなことはすまいと思いになるでしょう。しかし健吉くん自身からいえば、前三回の発病には自分は無関係だから、四回めに毒を投じて他人に嫌疑をかけさせるように計画したと考えても差し支えありません。差し支えのないばかりか、そこに立派な理由があるのです。
 それは何であるかと言いますに、実は健吉くんの恋人なる大島栄子さんから聞いたことですが、健吉くんのほかにも栄子さんを恋している人があるのだそうです。だから、栄子さんとの結婚を母親から拒絶されて健吉くんが情死を迫ったのも、栄子さんを、そのいわば恋敵のために取られたくなかったためらしいのです、で栄子さんは、健吉くんと結婚ができなければ一生涯独身で暮らすと固く誓ったのだそうです。けれど、気の小さい健吉くんがなおも不安を感じたことを想像するに難くありません。したがって、健吉くんがその恋敵を除こうと企てたこともまた想像し得るところです。というと、健吉くんが母親に毒を与えてどうして恋敵を除き得るかという疑問が浮かぶはずですが、山本さん、あなたにはよくわかっているでしょう。あらためてお訊ねするのも変ですが、健吉くんの恋敵というのはあなただそうですねえ?
 いや、こんなことを訊ねてお顔を紅くさせては申し訳ありませんが、これも訊問の順序として致し方ありません。で、健吉くんがその朝、あなたのところから母親に薬の届いたのをさいわいに、その中へ亜砒酸を投じ、あたかもあなたが毒殺なさったように見せかけたと考えても、これまた決して不合理ではないと思います。
 さてこうなると、健吉くんが投じたのか保一くんが投じたのかさっぱりわからなくなってき
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