あって、彼女が感化院へ送られたときいて、大《おおい》に怒って、それをウォーカーが二人の中を割く口実だと曲解しウォーカーを罵ったことがわかったのである。
 これによってウォーカーへ爆弾を送った動機が知れた。よってプライスはウォーカーの家のものを連れて来てヘンリーを見せると、果して「きじるしのヘンリー」だと言った。それにも拘わらず、ヘンリーは頑固に知らぬ知らぬを繰返していたので、プライスは又の機会を待たねばならなかった。しかしその機会は間もなくやって来た。
 始め医師はヘンリーに向って恢復の望みのあるように告げたが、段々容態が悪くなったので、もう数時間しか保たないと宣告すると、ヘンリーは始めて覚悟したらしく、探偵プライスを病床に招いた。
「ウォーカーの所へ爆弾を贈ったのは君ですね?」と探偵は訊ねた。
「はあ」
「ウォーカーと女のことで喧嘩したからですか」
「はあ」
「ロザルスキー判事へ贈ったのも君ですか」
「はあ」
「何故贈ったのです?」
「わかりません」
「新聞を読んで判事の態度が癪《しゃく》に障《さわ》ったのですか」
「はあ」
「ヘララ家へ爆弾を持って行ったのも君ですか」
「はあ」
「なぜそんなことをしたのですか」
「知りません」
「ヘララ一家とどういう関係があるのですか」
「何にもないです。ヘララという人を見たこともありません」
「けれど態々《わざわざ》あの人の家を選んだのはどういう訳ですか」
「ただ試して見たのです。どこでもよかったのです。偶然それがヘララさんの家だったのです」
 二時間の後ヘンリーは最後の息を引き取った。
          ×       ×       ×
 以上が先年ニューヨーク市を騒がせた不思議な爆弾事件の顛末である。こうした事件では、科学もあまり役に立たないのである。ことに動機のはっきりしていない犯罪事件では、探偵は非常な困難を経験しなければならない。もし神がその審判の槌を打ち下さなかったならば、ヘンリーは第四、第五の犯罪を重ねたかもしれない。かくて、「神は殺人のような大罪を見捨てて置かぬ」といった英文豪チョーサーの言は、科学探偵の時代にも立派に通用することがわかる。
[#地付き](初出不明)



底本:「探偵クラブ 人工心臓」国書刊行会
   1994(平成6)年9月20日初版第1刷発行
底本の親本:「趣味の探偵団」黎明社
   1925(大正14)年11月28日初版発行
入力:川山隆
校正:門田裕志
2007年8月21日作成
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