言葉を非常に気にするものです。ですから私は、外相暗殺という芸術的作品に向って、批評を試みようと思ったのです。そこで私は、その批評の言葉を犯人の耳に入れんがために、首相始め多くの人々に官邸へ来てもらって、ああいう芝居をしたのです。あの芝居には何の深い意味はなく、ただ私の批評の言葉を一層切実ならしめるためだったのです。ああすれば、たとえ犯人がその場に居なくても、いつかは犯人に私の批評の言葉が伝えられるにちがいないと思いました。で、私は故意《わざ》と事件に大きな手ぬかりがあると申しました。そうすれば、芸術家たる犯人は、きっと、私自身から、その意味をききたがるにちがいないと思いました。それがために犯人が私に接近して来れば、やがてそれが犯人の手ぬかりになると思って第二の言葉を発したのです。あの芝居を行ったときには、無論、誰が犯人であるかを知る由もなく、ああして置いて、その後、犯人が私に接近して来る時節を辛抱強く待っていたのです。果して私の予想は当りました。しかし、犯人が総監自身であろうとは全く意外でした。外相夫人にたずねても、総監自身を疑うような動機は一つも見当らなかったのです。I警視総監の遺書
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