からないで弱っていると、素人探偵オーギュスト・ヂュパンは、警察の人々のやり方を批評して、大臣が詩人であることに気がつかぬから、いくら探しても駄目である、大臣はその手紙を普通の人が隠しそうなところへは決して隠してはおらない。最良の隠し方は実に隠さないで置くことだということを大臣はよく知っているのだといって、易々と手紙を取り返して来ますが、殺人でもそれと同じことでして、数多い殺人者の中には、立派な殺人芸術家がありますから、探偵たるものは、決してそのことを忘れてはならぬと思います。さもないと、犯人の捜索は不可能になり、事件は迷宮に入り勝ちになるのです」
「しかし、犯罪学の上から言うと、一般に無頓着に行われた殺人の方が、計画された殺人よりも却って探偵するに困難だという話ではありませんか?」と、私は反問した。
「無論そうです。計画された殺人では、いわば犯人の頭脳と探偵の頭脳との戦いですから、探偵の頭脳さえ優れておれば、わけなく犯人を逮捕することが出来ます。これに反して、無頓着に行われた殺人は、万事がチャンスによって左右されるのですから、むずかしい事件になると随分むずかしいですけれど、その代り容易
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