りなさいましたでしょう。先生には、どうしてもお腹の子をたすけて頂かねばならぬので、何もかも事情を御話し致します。私が、お腹の子の無事を祈ってやまないのは、実は良人《たく》に対する復讐のためで御座います」
 思いもよらぬ言葉をきいて、私は、むしろ呆気にとられました。
「御不審はもっともです」と夫人は続けました。「先生、私たちの結婚生活は、決して幸福なものではありませんでした。結婚後一年間は比較的たのしい日を送りましたが、それから以後、私たちの心は、日に日に離れて行きました。良人は盛んに放蕩《ほうとう》をいたしました。お恥かしいことですが、私も面当がましい仕打ちを致しました。家庭はだんだん荒《すさ》んでまいりましたが、良人の乱行はつのるばかりで御座いました。とうとう良人は意中の女を得て妾宅を持たせ、そのほうに入りびたり勝ちになったので御座います。それまでは、あまり嫉妬がましい心も起きませんでしたが、どうしたことか、その以後、はげしく良人をにくむようになりました。そうして私は、何とかして、良人に復讐してやりたいと覚悟したので御座います。すると、そのうちに思いがけなく妊娠してしまいました。結婚
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