ある女にも見られる現象でありましょうか」と、私は、話の序《ついで》に、誰に訊くともなく言い出しました。
「そうですねえ、教養ある女でも、事情さえ許すならば、やりかねないだろうと思います」と、判事のY氏は言いました。「女子の行為は、復讐にしろ、また一般犯罪行為にしろ、極めてまわりくどく、且つデスペレートであることをその特徴として居ります。一旦復讐しようと決心したならば、貞操を破ったり、只今の御話のように、自分の身体をわざと悪疾の犠牲にするくらいのことは、たとえ、中流や上流の婦人でも、決して為かねないものだと思います」
「まったくですよ」とY氏の隣りに腰かけて居た産婦人科医のW氏は言いました。「いやもう女の執念ほど怖ろしいものはありません。復讐のために、蛇になったり、鬼になったりするという伝説も、まんざら作りごとではないような気がします」
この時、W氏とストーヴを隔てて対座して居た劇作家のS氏はいいました。
「定めしWさんは、御職業が御職業であるだけ、いろいろ女の怖ろしい性質を御観察になったことと思います。どうです皆さん、今晩は、Wさんの御経験の一ばんすごいところを伺がおうではありません
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