その母親は臨終《りんじゅう》のときに苦しい息の中から、世にも恐しい秘密を告げたそうです――わしは実はお前の母ではない。お前の母はわしの娘だから、わしはお前の祖母《ばば》だ。お前のお父さんはお前がお母さんの腹に居るときに殺され、お前のお母さんは、お前を生んで百日過ぎに殺されたのだよ――と、こう言ったのだそうです。子供心にも彼女はぎくりとして、両親は誰に殺されたかときくと、祖母はただ唇を二三度動かしただけで、誰とも言わず、そのまま息を引き取ったそうです。
その時から彼女は、両親を殺した犯人を捜し出して、復讐しようと決心したのだそうですが、自分の生れた所さえ知らず本名さえも知らぬのですから、犯人の知れよう筈はありません。そうなると、自然、世の中のありとあらゆる人が、仇敵《かたき》のように思われ、殊に祖母と別れてから数年間、世の荒浪にもまれて、散々苦労をしたので、遂《つい》には、世を呪う心が抑えきれぬようになったのだそうです。彼女が自ら選んで苦界へ身を沈めたのは、世の中の男子を手玉にとって、思う存分もてあそび復讐心を多少なりとも満足せしめ、以《もっ》て両親の霊を慰めるためだったそうです。いや
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