と言って俊夫君は大急ぎで洋服を着て、扉を開けにゆきました。
木村のおばさんというのは、親戚ではありませんが、俊夫君の家《うち》から一町ばかり隔たった所に小さい貴金属品製造工場を持っている木村英吉という人の奥さんで、俊夫君がよく遊びにゆきますから、きわめて親しい間柄なのです。
「俊夫さん、大変です。たった今うちへ泥棒が入って、大切な白金《はっきん》の塊《かたまり》をとってゆきました。早く来てください」
とおばさんは顔色を変えて申しました。
「どこで盗まれたのですか?」
「工場です」
「まあ、心を落ちつけて話してください。その間に仕度《したく》しますから」
と言って俊夫君は、例の探偵鞄の中のものを検《しら》べにかかりました。
おばさんが息をはずませながら話しましたところによると、昨日《きのう》津村伯爵家から使いが来て、伯爵家に代々伝わる白金の塊を明後日《あさって》の朝までに腕輪にして彫刻を施してくれと頼んでいったそうです。
この白金の塊はこれまで度々盗賊たちにねらわれたものであるから、じゅうぶん注意してくれとのことで、おばさんのご主人の木村さんは、助手の竹内という人と二人で十二時
前へ
次へ
全25ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング