中も、真っ暗闇に包まれてしまいました。
それから先、何事が起こったかは読者諸君の想像に任せます。悪漢のうちのある者は家の中で、ある者は逃げだしたところを、はげしい格闘の後、張り込みの警官たちの手で捕縛されました。私も人々の間にまじって一臂《いちび》の力を揮《ふる》い一人の悪漢を捩《ね》じあげましたが、よく見るとそれは皮肉にも竹内だったのです。
約三十分の後、総計八人の悪漢は護送自動車の中に積みこまれました。小田刑事はうれしそうな顔をして、
「俊夫君どうも有り難う。この中には、警視庁で数年来行方を捜していた、稀代《きだい》の貴金属盗賊がいるよ。いずれゆっくりお礼にゆく。君たちは、あそこの自動車で帰ってくれたまえ」
と言いながら、護送自動車に乗って去りました。
木村さんは白金を溶かした「お茶」が流れてしまったので、あまり嬉しそうな顔はしていませんでした。やがて俊夫君は木村さんを自動車のそばに引っ張っていって、
「さあ、木村のおじさん、約束どおり白金を取りかえしてあげました」
と言いながら、木村さんの手に白く光る塊を渡しました。
「やっ」
と言いながら木村さんは、つかむように受け取って、
「ど、どうしてこれが……」
「レントゲン検査に行ったのは、これを取りかえすためだったのです」
と、俊夫君は説明しました。
「ああしなければ竹内を連れだすことができません。僕は岡島先生の家から一足先に帰りおばさんに会って、朝飯を食うふりをして土瓶の中の本物をただのお茶にすりかえておいたのです。それから本物を別の罎《びん》にうつして、浅草の山本実験所へ持っていって還元してもらい、四時に警視庁から取りにいったんです。
先刻、盗賊の親分はあの土瓶にただのお茶が入っていたので、竹内がすりかえたものと思って、怒って投げつけたのですよ。……さあ早く帰って、おばさんを喜ばせてあげましょう」
底本:「小酒井不木探偵小説選 〔論創ミステリ叢書8〕」論創社
2004(平成16)年7月25日初版第1刷発行
初出:「子供の科学 二巻三〜五号」
1925(大正14)年3〜5月号
入力:川山隆
校正:伊藤時也
2006年11月14日作成
青空文庫作成ファイル:
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