妊娠ではなく、明らかに肝臓硬変症、すなわち俗に言う“ちょうまん”で、お腹の大きいのは腹水のためであり、黄疸《おうだん》は目につきませんでしたが、腹壁には“メデューサの首”の症候がはっきり現れておりました。あなたがたはもうお学びになったことですから、説明するまでもありませんが、メデューサとはいうまでもなくギリシャ神話の中のゴーゴンの伝説に出てくる怪物で、その髪の毛が蛇からできているそうです。肝臓硬変症の場合には、肝臓の血管の圧迫される関係上代償的に腹壁の静脈が怒張して、皮膚を透かして蛇がうねっているように見え、その静脈が臍《へそ》のところを中心として四方にうねり出る有様は、メデューサの頭をてっぺんから見るように思われ、メデューサの首と名づけられているのであります。え? なに? 講義のときにそんな説明は聞かなかったのですって? では、わたしの考えが間違っておりますかな※[#感嘆符二つ、1−8−75] まあ、どうでもよろしい。とにかく、肝臓硬変にもとづく腹水に悩む患者の腹壁をよくご覧なさい。ギリシャの神話を読んだことのある者なら、たしかに患者の腹の中に、メデューサの首が宿っているのではないか
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