てやりたいということです。しかし、それがだれであるかはもとよりわかりません。が、もしわたしが死にましたら、きっと復讐ができると思うのです。魂はどんなむずかしいことでもするということですから」
わたしはそれを聞くと、ひょろひょろと倒れるかと思うほどの恐怖を感じました。なんという戦慄《せんりつ》すべき女の一念であろう。
「復讐といって、どんなことをするのですか」
と、わたしが思わずも訊ね返しました。
「魂だけになったら、その人間に一生涯しがみついてやるのです」
わたしはなんだか息苦しくなってきたので、
「よろしい、万事あなたの希望通りにします。しかし、死ぬというようなことは決してないと思います」
こう言ってわたしは、彼女の病室を出て手術の準備をいたしました。
ところが、わたしの予想は悲しくも裏切られ、彼女の心臓は麻酔にさえ堪え得ないで、手術を始めて五分|経《た》たぬうちに死んでしまいました。こう言ってしまうとすこぶる簡単ですけれど、わたしがその間にいかに狼狽し、苦悶し、悲痛な思いをしたかは、あなたがたのお察しに任せておきます。
かくて、彼女は自分の妄想の犠牲となって死んでいきま
前へ
次へ
全26ページ中22ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小酒井 不木 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング