てやりたいということです。しかし、それがだれであるかはもとよりわかりません。が、もしわたしが死にましたら、きっと復讐ができると思うのです。魂はどんなむずかしいことでもするということですから」
 わたしはそれを聞くと、ひょろひょろと倒れるかと思うほどの恐怖を感じました。なんという戦慄《せんりつ》すべき女の一念であろう。
「復讐といって、どんなことをするのですか」
 と、わたしが思わずも訊ね返しました。
「魂だけになったら、その人間に一生涯しがみついてやるのです」
 わたしはなんだか息苦しくなってきたので、
「よろしい、万事あなたの希望通りにします。しかし、死ぬというようなことは決してないと思います」
 こう言ってわたしは、彼女の病室を出て手術の準備をいたしました。
 ところが、わたしの予想は悲しくも裏切られ、彼女の心臓は麻酔にさえ堪え得ないで、手術を始めて五分|経《た》たぬうちに死んでしまいました。こう言ってしまうとすこぶる簡単ですけれど、わたしがその間にいかに狼狽し、苦悶し、悲痛な思いをしたかは、あなたがたのお察しに任せておきます。
 かくて、彼女は自分の妄想の犠牲となって死んでいきま
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