と、わたしは恐ろしい夢を見たのであります。夢の中でわたしがパーシュース(ペルセウス=ギリシャ神話の英雄)となってメデューサの首を切り落とすと、その恐ろしい首がわたしのお腹へ飛び込みました。はっと思ってわたしが跳ね起きますと、なんだか頭が重くて、時計を見ると三時間も寝たことがわかりましたので、びっくりして鏡に向かって髪を梳《と》きつけ、例のごとく裸になりますと、その時わたしは思わずもひやっという叫び声を上げました。わたしのお腹の上いっぱいに、メデューサの首がありありと現れているではありませんか。わたしは夢の中のことを思い、この不思議な現象を見て、生まれて初めての大きな驚きを感じました。わたしは一時気が遠くなるように覚えましたが、よくよくお腹を見ると、メデューサの首は墨で描かれたものでありまして、手に唾《つば》をつけてその上を擦《こす》るとよく消えましたから、わたしはさっそく手拭《てぬぐい》に湯を浸《し》ませてお腹の上に描かれたメデューサの首を拭い取ってしまいました。
 それからわたしが冷静になって考えますと、たしかにだれかが催眠剤によってわたしを眠らせ、メデューサの首の悪戯書きをしたに違
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