案の探偵小説がかなり盛んに世に行われ、ここ数年間、翻訳探偵小説が大いに読まれるようになり、それと同時にぼつぼつ創作家が出るようになり、遂にわが江戸川乱歩兄が生れるに至った。すべて何ものが生れるにも、その機運が熟しなければならぬけれど、思えば三十年あまりもかかって、ようやく創作探偵小説に一人の明星を生み得たとは、随分熟し方ののろい機運であったといわねばならない。しかし、この明星をかりに宵の明星とすれば、追々その他の星のあらわれてくる機運となったと見ることも出来る。いずれにしても江戸川兄の出現はあらゆる意味に於て喜ばしい限りであり、しかも同兄は年歯僅に三十二、今後益々発展し生長せんとしているのである。まことに、エドガア・アラン・ポオが探偵小説の鼻祖であるとおり、わが江戸川乱歩は、日本近代探偵小説の鼻祖であって、従ってこの創作集は日本探偵小説界の一時期を画する尊いモニュメントということが出来るであろう。
[#地付き](『心理試験』、大正十四年七月、春陽堂)



底本:「探偵クラブ 人工心臓」国書刊行会
   1994(平成6)年9月20日初版第1刷発行
初出:「心理試験」春陽堂
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