者がしまいまでずんずん引っ張られてしまうのは、その叙述の仕方が寸分のスキもないように順序立てられてあるからである。そうして、読者を引っ張って行こうとした努力のために却って論理の矛盾を来すような破目に陥ってしまったのである。
ポオ自身が、この論理の矛盾に気附いたかどうかは、もとより知るに由もないが、たとい気附いてももはやどうにもすることが出来なかったのであろう。これは本格探偵小説を書くものの常に出逢う難点であって、本格小説に手をつける人の少ないのはこれがためであるとも言える。
警察の記録ならば事実を羅列しさえすればよいのであるけれども、物語である以上は、読者を満足させるように何等かの解決をつけねばならぬため、そこに多少の破綻が起って来るわけである。又、本格探偵小説を書くときは、ややもすると、些細な点の説明を逸し易いものである。「マリー・ロオジェ事件」の中にも、例えば、ヂュパンは叢林の木の枝に引っかかっていた衣服の破片が、格闘の際偶然に引きさかれたものでないことを主張しながら、何のために犯人がわざわざ衣服を引き裂いてそこに引っかけたかということについては説明していないのである。
けれ
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